にのみやの誕生日に寄せて

梅雨のどまんなかに誕生日だなんて、象徴的すぎて神様の裏工作の匂いすらする。生まれながらにして計算高い演出家に恵まれたにのみや。


にのみやその人についてこれまであんまり深く語ってこなかったので、今日くらいちょっと掘り下げてみてもいいかもしれない。
(注:以下は決して楽しくめでたい話ではないです。今日をにのみや礼賛の日にしたい人は迂回してください)



実は、わたしはにのみやが苦手だ。知ってるひとは知ってると思うけど。
なんというか、にのみやを見てると言外の言葉がいっぱい聴こえてくるんだよね。それが煩いというか。あんなにしゃべってる子なのに、あの子のまわりには言葉にしていない心の声が、無数にゆらゆら浮遊してる。その、沈黙で語ろうとする雰囲気が文学的だったり思慮深いように見えるから、役者としては魅力的なんだろう。でもあの子はおそらく、ぼんやり思索を重ねるタイプじゃない。その「言わなかった言葉」を聞いてほしい「誰か」が常に存在してるんだ。その相手には、ほんとの気持ちを黙ってる自分を見てほしいと思ってる。おれはこういう人間だからあけすけに心を開いたりしないよ、って全身で訴えてるんだ。なんてめんどくさくて甘えん坊な子なんだろう。


にのみやはさ、ちょっと自分と似てるんだよね。だから近親憎悪っていうか、なるべくならあんまり正面きって考えたくない存在。表面的にはわたしはあの子みたいに早口じゃないし、あんなに頭の回転よくないんだけど、なんとなく根本的な思想が近い感じがずっとしてる。他人との距離のとり方とか、物事の選択基準とか。たとえばわたしは今でも、どうして男と女は1対1でつきあわなきゃいけないのか理解できないんだけど、でもその考え方っておそらくマイノリティだから、そのまま口にすると人間関係はうまくいかない。それは恋愛に関することだけど、それと同じ構図で、わたしの場合は小さい頃から両親と根本的な思想を共有できなかったことが自己形成に大きく影響していて、成長する過程で対外用の台詞と内向用の台詞を分けて用意する技術を身につける必要があった。たぶんにのみやにもそういう過程をどこかで経ていて、あの子の切り返しの速さは、その対外用の台詞を考える思考回路が発達しすぎて自分の気持ちとは別のところから言葉を産み出せるようになったからだと思う。感情を言葉にして口に出すとときどき矛盾も生じるけど、ロジックで言葉を考えるなら間違いは少ないから。


そのくせにのみやは面倒なことに、併せて甘えたがりな末っ子気質も持ち合わせているから複雑だ。信用できる人が世の中に少ないことを知っているから、人を見ては甘えられる人かどうか判断して、だいじょうぶだって思った相手には全幅の信頼をおいて依存し切ってしまうんだ。にのみやが自分を軽く、掴みどころのない人間に見せようとしているのは、そういう自分の依存心や執着心を隠そうと制御する意識からだと思う。わたしもそうやって自分の嫌な部分を隠そうとする癖があって、それに後から気づいたときのはずかしさや後ろめたさといったらない。


なによりそういう人がさ、あいばさんの間近にいるっていうのがなんとも…。


にのみやがあいばを好きな気持ちはすっごくよくわかる。感情をあっけらかんと出しても愛されるあいばと、そのまま出してしまうと軋みを生じかねないことを知っているにのみや。にのみやの場合は、賢い人だから裏に複雑な感情があるんじゃなくて、もともとの感情が複雑だからそれを統制する知性が育ったんだと思う。でもさ、どんなに生きるのがうまくなっても、あいばのようにはなれないんだ。にのみやにとっては絶望的な現実かもしれないけれど。ピカソが名声を得てからも「2歳児の自分を取り戻したい」って言いつづけてたのと同じように、それまでに必死で身につけたテクニックを捨てて無邪気な心を取り戻すのはほとんど不可能に近い。しかも、あいばはにのみやを思春期からずっと知ってて、にのみやの葛藤にずっと立ち会ってるはずなのに、決してにのみやの業の深さに流されないで、倦まず濁らずすくすくと育ってきた。その不可思議な関わり合いは、にのみやにとっては幸いなことだったと思う。あいばがもっとにのみや大好きっ子だったりもっとべたべたした関係を望む人間だったら、この二人は共倒れしていたと思う。


ごめん、にのあいのことはこれ以上もういいや。わたし以外にも語るべき言葉を持っている人がたくさんいるから。


にのみやのことは嫌いじゃないよ。決して積極的に好きとはいえないけれど、世の中にいる人間のなかでかなり特別な存在。なにしろわたしをサディスティックにさせる人間といえばにのみやを置いて他にいない。でも本当ににのみやは、嵐になって27まで生きられて、良かったと思うんだ。世界中にいるにのみやを好きな人の数はきっとにのみやには多すぎて、全員を幸せにしようとするにはまた要らない疑問符を抱えてしまうだろう。だからきみは、周りにいる少しの人達だけを全力で大事にすればいいと思う。だいじょうぶ、きみは自分で思ってるほどしっかりしてないし不完全だし幼いところがあるけれど、それをまるごと愛してくれる人達がいるんだから。


にのちゃん、お誕生日おめでとう。いつまでも全身で思春期なあなたをかわいらしく思ってるよ。