自由演技

どっちで書こうか迷ったけど、こっちにしてみる。といいつつ書きながら考えるつもりでいるんだけど、最後あいばデレで終わるのは目に見えているからこっちで。


あいばさんに出会って影響を受けたことはたくさんあるんだけど、劇的にではなくじわじわと、自分が変わったなぁと思うこと。

わたしはずっと「人に何かを伝える」ということに懐疑的だった。自分でも自覚しているけれど、とても頑固だし、マイペースだし、ひとりが好きだから他人に立ち入られたくないし、そもそも言葉を信用していないので他人に言葉で何かを伝えたい、という気持ちになることがほとんどなかった。そんなわけなので、わたしには友達らしい友達があまりいなかった。淋しい、人恋しい、という感情が欠落しているのだろう。じかに人と会って話すより、絵や物語を介してコミュニケートするのが好きだった。そのほうが人とのつながりかたとして品があると思ってたし、正直人間自体よりも産み出されたもののほうに興味があった。

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「伝えたいことがいっぱいあるから」あいばのこの発言初めて聞いたとき、わたしも「甘いなぁ」と思った。実際モノを作ってない人だからいえることだと。たとえばあいばは、言葉を扱う人になるには言葉に対する意識がとても低い。とても軽々と言葉を使う。振り返らない、深く掘り下げない*1、言葉というものにどうしてもくっついてきてしまう意味の揺らぎや排他性に対する後ろめたさがない。

だけど、あの人は時としてミラクルを起こす。それも結構な頻度で。毎回本当にびっくりする。どうやらあの人は音感がかなり優れているみたいだ。新しい言葉に対する耳がいい*2。わたしには考えられないけど、雰囲気で言葉を使っちゃう。書かれた文章じゃなく会話の中で聞いて覚えているから、ものすごくダイナミックな言葉の使い方をする。知ってる言葉のなかで良いことを言おうとするんじゃなくて、先に感情があって、それをなんとか表現しようとして一生懸命言葉をさがして、それで足りなければ笑ったり泣いたりして表して、それでもまだ表現しきれなければ全身を使う。そう、そこまでしてあいばが届けようとしているもの、それが「伝えたいこと」なんだ。

世の中には、からっぽな言葉があふれてる。わたしもあまりえらそうに言えないんだけど、それっぽく聞こえる言葉というものが世の中にはたくさんあって、「エコ」とか「ふれあい」とか、それ自体には罪はないけれど多用されすぎてて意味が空疎化している言葉が氾濫してる。何も言ってないのに何か言った気にさせる言葉。

あいばがいつも好んで使う言葉だって、特別なものじゃない。「ありがたいことです」「ひとつひとつのことを楽しんでやるだけです」それぞれのワードだけ聞いていても、そんなに人に響くものじゃない。アイドルらしいからっぽの綺麗事にも聞こえる。ただ、あの人がすごいのは、口先だけじゃないということ。というか、行動に言葉が追いついていないところ。あの人、今朝のズームで「コンサートは、相葉雅紀 自由演技 です」って言ったんだよ。正直感嘆した。あいばが伝えたいことを自由に表現した結果、あの手抜きのないずーっと全力、ずーっと笑顔になるのか!しかもそれをあのインタビューの場で即興で「自由演技」って表せてしまうのか!と思って。

わたしは難しい言葉使うのも使われるのも嫌いじゃないんだけど、どうしてかというと、難しい言葉というのは実は「あんまり使われない言葉」だから、意味を狭く限定できるので却って伝わりやすいんじゃないかと思ってる。単に「赤い」っていうよりも「紅赤色の」とか「ルビー色の」って言ったほうが具体的にイメージできるでしょう?でもあいばがもし「赤い」を表現しようとするなら、と考えてみる。たぶん、言葉で終わらそうとしない。「すげー赤いの。真っ赤に熟してておいしそうなの。あれおいしかったなぁ…。あ、食べたくなったでしょ。今から行く?行っちゃう?イチゴ狩り!」みたいな。そうしてイチゴの赤色を相手と共有するために、出来ることを全部やろうとする。それがおそらくあいばにとっての「伝える」ということなんだ。*3

あたりまえのことだけど、言葉が先にあるんじゃなくて、伝えたいという感情が先にある。「伝える」ということはつまり、何かを媒介にして人を動かすということ。わたしは長いこと、人の気持ちを動かしたいと思ったことがなかった。わたしにとっていちばん大事なのは自分が納得することなので、他人に対する要求や期待が元来ものすごく少ない。だけど、最近になってようやく「人に喜ばれたい」「自分の感情を誰かと共有したい」という欲求が出てきた。それまでそういうことをまったく考えたことがなかったから、人に伝わるように書いたり喋ったりするのがほんとに下手なんだけど、必死でその「伝えたいこと」の輪郭をさがして口にすれば、自分が誰かに感動させられるのと同じように、誰かの気持ちを動かすことができるかもしれない。そう思い始めた。

今だから言うけれど。わたしは一度だけあいばに手紙を書いたことがある。わたしが唯一参戦した、あの札幌のコンサートの夜。すごい感動して、あいばにありがとうっていわなきゃ!と思って、帰り道にコンビニでレターセットを買ってホテルで書いてすぐに投函した。手元に届くとは思ってないけど、わたしの「伝えたい」という感情の原点はたぶんあそこにある。今だってあんまり熱心じゃないけど、でもたとえばこないだの土曜日、ぱんせちゃんとはなちゃんとあいばの左肩について話したときはかなり全力だった。上手に伝わればきっと共有できる、そしたらぜったい楽しい!って思って。
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ここまで読んでくれた方、お疲れさまでした。相変わらず得るところのないエントリだと思いますが、あなたの愛してるアイドルが人をこれだけ動かしたという一例だと思って、あの子をまた少し誇りに思っちゃえばいいと思います。

*1:ん、トルメンタ?

*2:左耳がいいとかそういうことではないよ!

*3:言うまでもないけれど、イチゴの例はあくまでマイまさきの発言なのでね。たとえばの話ですよ